海辺にて

小さな神社の境内にテントを張る。
疲労がたまっているのがわかる。
米を研ぎ水にかして、飯を炊く。野菜が不足しているのか、体調も良くはない。
雨が降ったり、霧が出たり。
どんよりと重い空気の中を歩いていくのだから、あまり晴れやかな気分という感じでもない。
写真もあまり撮れない。

しかし、石井友規は充実したものを感じ始めていた。
気負って、熱っぽく考えるのはいつも動けない時である。不安が在る。

動き始めれば、自分の体内のなにかが循環を始める。

感情に突き動かされ、熱くなったり冷めたりと刻々変化する気分。
しかし、そういった表層的な気分とは別に、
自分が自分である充実感が自らの核に確と根を下ろし、
真摯に自分と向き合うことができるようになるのを感じるのだ。
その時、もう不安はない。


三陸の海の音をずっと身体で聴きながら歩いている。
暗くなっても、すぐ近くで波の音がする。

ここで生きている動物達の耳になる。
ここで暮らして来た人達の耳になる。
この木々達の耳になる。

そんな漆黒の夜の音は、明日の石井友規の眼を啓いてゆくのだろう。

群がってくる蚊を払い、炊きたてのご飯とみそ汁をすすり、
ちいさな赤いテントに潜り込んだ石井友規は、
ゆっくりと見えない星々を感じながら眠りに落ちていった。




(この日記は、石井友規写真事務所担当スタッフが、石井友規本人から送られる写真・旅程等をもとに、その行動を想像を交えながら自由に描いております。)


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